「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」の要約と感想|そもそも「読書」とは何かを考える本

 

働くようになってから、本が読めなくなった。そんな感覚を持ったことはないだろうか。仕事に追われ、情報ばかりを追いかける日々のなかで、一冊の本をゆっくり読む時間や心の余裕が、いつの間にか失われていく。

 

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」は、そんな疑問に真正面から向き合い、答えを模索する一冊だ。

 

この記事では、実際に本書を読んだ私が、

  • 書かれている内容の要約
  • どんな人におすすめか
  • 印象に残った一節とそこから考えたこと(感想)

を順に紹介していく。

 

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」をギュッと要約(約600字)

 

現代の労働は、労働以外の時間を犠牲にすることで成立している。だからこそ、仕事と文化的な生活を両立できないことに、多くの人が悩んでいる。──これは、現代日本を生きる私たちにとって切実で、根の深い問題だ。

 

読書の「立ち位置」が変わったことも大きい。時代によって、読書はその意味を変えてきた。あるときは教養を得るための手段として。あるときは娯楽のひとつとして。そして現代において、読書は「ノイズ」になっている。

 

インターネットの世界では、知りたい情報だけを効率よく手に入れられる。社会の複雑さや歴史の文脈を考慮する必要もない。そんな「ノイズのない情報」に慣れた私たちにとって、読書は不純物を含んだ、少し扱いづらいものになってしまった。

 

コントロールできるものに集中し、できないものは切り捨てる。そうした価値観が広まるなかで、自己責任を求められる社会では、「効率的な情報」に手を伸ばす人が増えるのも無理はない。

 

読書をするには、余裕がいる。

 

仕事や家事、趣味や人間関係── さまざまな関係性のなかに、自分の居場所をつくること。それが他者の考えや文脈を受け入れる余白をつくる。その延長線上に、読書を楽しむ時間が生まれる。

 

仕事に全身全霊を注ぐと、それ以外の居場所がない。仕事以外のものが入り込む余地がない。だからこそ、「半身」で働いてみることが大事であり、そのような社会を私は望んでいる。

 

「読書の意味」について考えたい人におすすめの一冊

 

本書は、タイトルにある「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という問いに対して、読書と労働の歴史をたどりながら、その答えを探っていく一冊である。

 

明治から令和まで、時代ごとに変化してきた労働者と読書の関係、そしてその時代に読まれた本や社会背景を通して、「本を読む人の心理」を描き出している。こうした一つひとつのエピソードは、本書全体を流れる「ノイズ」のようでもある。

 

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」──その答えを知りたくて手に取る人は多いだろう。しかし、答えはすぐには見えてこない。むしろ、数々の“ノイズ”の中に埋もれていて、最後まで読まなければ辿り着けない。

 

読んでいる途中は、どこに向かっているのか分からない。結論までの道のりは回り道ばかりだが、その回り道こそが「読書そのもの」である──そんな著者の意図を感じさせる構成になっている。

 

「最近、本が読めなくなってきた」と感じる人はもちろん、そもそも「読書とは何なのか」、読書の意味について考えたい人に向いている。全体を通して、著者が本を好きなことが伝わってくると同時に、本が好きな人に向けて書いてあるようだと感じた。

 

印象に残った一節と感想

「本」をインテリアとして売る

「瀟洒(しょうしゃ)な新式の装幀(そうてい)で書斎の一美観」つまり”書斎”に置く本として美しいインテリアであることを強調している点だ。p86

 

本をインテリアとして売るという発想を、大正時代にすでに実践していたということに驚いた。当時は書斎兼応接間のある家が増え、「読書=教養」というイメージが定着していた。客を迎えたときに“知的な人”と思われたい──そんな欲望が、装幀という形で本に投影されていたのだ。

 

ビジネスを考えるうえで、人の欲望を切り口にする発想は今も昔も変わらない。どんな時代も、企業は売上のために試行錯誤してきたのだと感じた。

 

私自身もブログを書くとき、どんな切り口で書けばいいのか、ありきたりにならずにどうすれば伝わるのか、いつも悩んでいる。そんなとき、「人の欲望」という視点から考えてみることは、これからの文章づくりのヒントになりそうだと思った。

 

好きなことを仕事にする必要があるのか?

好きなことを活かせる仕事──麦の言うとおり、それは夢物語で、モラトリアムの時期に描くことのできる夢なのかもしれない。しかし問題は、それが夢物語であること、ではない。むしろ好きなことを仕事にする必要はあるのか?趣味で好きなことをすれば、充分それも自己実現になるのではないか?そのような考え方が、麦にとってすっぽり抜け落ちていることこそが問題なのだ。p186

 

当時ニートと呼ばれる若者たちが問題になっていたが、ニートをつくり出したのは、実は「やりたいことを仕事にすべきだ」という風潮だったのである。p191

 

私も「やりたいことを仕事にすべき」派だった。大学を出たあとは、ファッションが好きでアパレルの道を選んだ。そこに後悔はしていないが、本書のいう「趣味で好きなことをすれば、充分それも自己実現になるのではないか」という視点は、まったくなかった。この一文を読んで、初めてそのことに気づかされた。

 

「好きなことを仕事にする」──いつからか、それが頭に刷り込まれていた。今振り返ると、社会全体がそうした空気に包まれていたのかもしれない。

 

怖いのは、自分の考えだと思っていたことが、実は社会や世間の風潮に流されていただけだったかもしれないということだ。自分で考えたつもりが、何も考えていなかった。そのことに気づいたとき、少しゾッとした。

 

社会の流れに乗ることが、悪いことではない。けれど、無自覚に流されるよりは、意志を持って乗る波を見極めたい。それは、簡単なことではないかもしれないが。

 

まとめ

本書は、著者の言うところの「ノイズ」が多い作品である。読み進めながら、「なぜ今、明治時代の話を読んでいるのだろう」と思う場面もあった。それでも読み終えたときには、純粋に面白いと感じたし、本の売り方や出版社がどんな工夫をしてきたのかなど、ビジネス的にも学ぶことが多く、読んで良かったと思えた。

 

この「ノイズ」を楽しむことこそが、読書の本質なのだろう。予想していなかった「何か」に出会えるところに、読書の面白さがある。今すぐ役に立たなくても、心が動く瞬間があれば、それでいい。その感覚を思い出させてくれる一冊だった。

 

読書の面白さを実感したい人は、ぜひ手に取ってみてほしい。

 

書籍情報

なぜ働いていると本が読めなくなるのか(著:三宅 香帆)

集英社

  • 2024年4月22日 第1刷発行
  • 2025年2月11日 第11刷発行
  • 30万部突破(帯に記載あり)

※記事執筆時点の情報です。

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