
考える力は、どこで失われ、どこで育つのだろうか。「読書する脳」は、読書の効果を脳科学の視点から解説しながら、現代社会がはらむ問題と、その解決手段として読書が有用であることを教えてくれる一冊だ。
この記事では、実際に本書を読んだ私が、
- 書かれている内容の要約
- どんな人におすすめか
- 印象に残った一節とそこから考えたこと(感想)
を順に紹介していく。
「読書する脳」の要約
著者の問題提起
現代社会では、他者が作った情報や価値観に触れる時間が圧倒的に増えている。そのなかで私たちは、自ら考え選択する主体というよりも、受け取ったものをただ評価する立場になりがちだ。
立ち止まって考えることをせず、周りと同じ選択をする。それは、スマホやSNSを起因とする「精神的自由」の低下だと著者はとらえている。
絶え間ない刺激と情報によって、思考や意思決定の余地が狭められている今、精神的自由を取り戻すことが重要になる。その具体的な手段として、本書では読書の役割に光を当てている。
著者の読書へ対する捉え方
本書では、読書を単なる情報収集や娯楽としてではなく、脳の働きそのものに作用する行為として解説している。読書は複数の脳領域を活性化させ、知的能力を高める効果を持つ。
その効果は一過性のものではなく、継続的な読書習慣によって脳の可塑性が促され、語彙力や思考力の向上、認知機能の維持につながるとされている。
また著者は、読書の効果が媒体によって異なる点にも注意を向けている。スマートフォンでの読書は、紙の本に比べて内容理解が低下しやすいことが実験で示されている。
これは、情報の内容そのものだけでなく、情報を受け取る媒体の物理的条件が、認知や学習のプロセスに影響を及ぼすことを示唆している。
読書の3つの型
本書では、読書の方法を大きく3つの型に整理している。「快読」、「精読」、「音読」である。それぞれは優劣の関係ではなく、目的に応じて使い分けるものとして位置づけられている。
快読
快読とは、見出しやキーワードを中心にざっと目を通し、必要な情報を素早く拾い上げる読み方だ。一般に速読やスキミングと呼ばれる方法がこれにあたる。
この読み方の利点は、限られた時間の中で多くの情報を処理できる点にある。重要な情報だけを選択的に取り込むことで、脳の作業記憶への負荷を抑える効果も期待できる。
一方で、細部や文脈が抜け落ちやすく、内容を深く理解したり、緻密な論理を追ったりするには不向きだという側面もある。
精読
精読は、文章の細部に注意を払いながら、文脈や行間を丁寧に読み取っていく読み方である。
この方法では、文章全体の意図や微妙なニュアンスを推論する力が鍛えられ、内容が長期記憶として定着しやすくなる。また「行間を読む力」は、他者の感情や意図を理解する力とも深く関わっており、コミュニケーション能力の向上にもつながるとされている。
ただし、その分、多くの時間と高い集中力を必要とする点はデメリットと言える。
音読
音読は、文字を目で追うだけでなく、実際に声に出して読む方法だ。
視覚や言語に関わる脳領域に加え、聴覚や運動に関わる領域も同時に使われるため、記憶の定着が強まりやすい。集中力を高める効果も期待できる。
その一方で、場所や時間を選ぶ必要があり、短時間で大量の情報を処理する用途には向いていない。
読書の効果を最大化する方法
読書で得た内容を、自分の言葉で書き出すことは、理解と記憶を深めるうえで欠かせない。本書では、こうしたアウトプットそのものが、脳に刺激を与えると説明されている。
書く行為を通じて、脳は蓄えられた情報を能動的に呼び起こそうとする。この「思い出す」という働きが、記憶同士のつながりを強め、知識を定着させる役割を果たす。
さらにその際、脳は情報を単に再生するのではなく、既存の知識や新たな文脈と結びつけながら整理し直している。いわば、読書を通じて世界の見え方・捉え方、枠組みが更新されていく──いわゆる「スキーマ」を再構築しているというわけだ。
読書が生む「未完了感」と精神的自由
本を読み終えても、内容が完全に整理され、すべてが腑に落ちることはそう多くない。むしろ、疑問や引っかかりが残ることのほうが自然だ。本書では、こうした「未完了感」こそが、読書の持つ重要な価値だと捉えている。
理解しきれなかった部分や曖昧さが残ることで、脳はその空白を埋めようと働き始める。他人の解釈や既製の答えを受け取るのではなく、自分なりの意味づけや視点を探そうとする。この能動的な思考のプロセスが、自律性や自己決定の感覚を育てていく。
絶え間ない刺激を与えるスマートフォンによって失われがちな「考えるための余白」は、読書を通じて取り戻すことができる。この点が、本書を通じて著者が伝えたいことである。
この本はどんな人のおすすめか
この本は、読書がもたらす効果について、脳科学の観点から書かれている。
「本を読むと頭が良くなる」
よく聞くこのフレーズを、科学的な根拠と合わせて解説している一冊である。専門用語も分かりやすく解説されていて、とても読みやすい。
- 読書しているのに、手応えを感じられない人
- スマホでたくさん情報をインプットしているのに、考えが深まらない人
- スマホやSNSで疲れている自覚がある人
こうした人に手に取ってほしい。
記憶に残りやすい読書の方法や、電子書籍と紙の本での記憶定着の差についても書かれている。またスマホやSNSで常時疲労状態の脳に取って、読書が脳の休息になる仕組みについても分かりやすく解説している。

印象に残った一節
「冊数」では測れない「読書の質」
冊数や読書量それ自体を競うことに意味があるとは思えません。
むしろ大切なのは、「どのような内容を」「どのくらい深く丁寧に読むか」という
「読書の質」ではないでしょうか。
読書する脳 p26
ここには深く同意した。SNSを開けば「年間〇〇冊読みました」といった、冊数をアピールする投稿をよく目にする。そんな中で、読書量に意味はないとズバリ言ってくれたことが、とても気持ちよく感じられた。
もちろん、「〇〇冊読みました」というアピールそのものが悪いとは思わない。何かを売ろうとする商業的なアカウントであれば、それが有効な手段であることも理解している。ただ、それがあまりにコモディティ化しすぎていて、見ている側としては正直うんざりしてしまう、というだけだ。
多読には多読のメリットもある。情報を多く、効率よくインプットできる点は確かに魅力的だ。ただし、当然デメリットもある。それは、自分の見たい情報だけを抜き出してしまう可能性が高い、ということだ。
情報を早く処理しようとすると、脳は本の中から読む情報を取捨選択する。その際の基準は、今の自分の興味関心や価値観である。
つまり、今の自分の価値観に合うものしか目に入らず、合わないものは自然と見えなくなってしまう。さらに、その情報を掘り下げて深く考えることもない。
積極的に情報を取りに行っているように見えて、実際には情報をシャワーのように浴びているだけなのではないか。それに、本当に意味はあるのだろうか。
そんなことを、以前からずっと考えていた。だからこそ、この一節は自分の気持ちを代弁してくれたように感じた。
私は、気に入った本を何度も読み返す。一度読んだだけでは理解できなかったことが、あるとき不意に腑に落ちる瞬間がある。目の前が開けるように、世界の見え方や捉え方が変わる。そんな感覚が、これまでにも何度かあった。
精読が大事だと感じていた自分の感覚は、間違っていなかった。
この本は、そのことに気づかせてくれた。
脳は「報酬を得られる可能性を最大化する」ことを目指している
ドーパミンの役割は、脳内の「報酬系」という回路において、報酬を予測し、その報酬を最大化するための行動を促すことです。p43
つまり、脳は「快感そのもの」を追求しているのではなく、「報酬が得られる可能性を最大化すること」を目指しているのです。p44
ドーパミンが快楽そのものではなく、快楽を得られるかもしれないものに反応する、ということは、初めて知った。でも納得できる。
ギャンブルや投資・トレードも、お金を失う時はそういう脳の仕組みもあるのだろうと感じた。確実に勝てるではなく、勝てるかもしれない、の方が興奮してしまうということだろう。負けてもまたお金をかけてしまう心理にはこうした脳の働きが関係していると思う。
人の行動が予測によって動かされる以上、スマホやSNSをはじめとするアテンションエコノミーが、この仕組みを前提に成り立っていることも自然なことなのだろう。そう考えると、それらが脳の性質と相性がいいことにも、妙に納得してしまった。
まとめ
今回挙げた内容以外にも、読書後のアウトプットの話なども、読書の効果を高めるものとして解説されていた。普段自分がやっていることを、他人が良いこととして言及していることは、とても嬉しく思う。
しかし、そういった本を、そういった部分を選んでること自体が、私に確証バイアスが働いている証拠なのかもしれない。
自分の視点が偏ってるかもしれないと自覚することが、多面的なものの見方や深く考える能力を鍛えるのに必要なのだろう。
書籍情報
読書する脳(著:毛内 拡)
SBクリエイティブ
- 2025年11月15日 初版第1刷発行
- 2025年12月15日 初版第3刷発行
※書籍購入時点の情報です。